SNSやネット掲示板などをみていると、視線恐怖症が自分以外の人にもうつるという意見・体験談をたまに目にします。
しかしそれは勘違いでしょう。
視線恐怖症はまずうつらないと思います。

動作はうつったりする

視線恐怖症はうつるのか

視線に対する恐怖心を抱いていると、目がキョロキョロ動いたり落ち着きのないしぐさ(頭をかくなど)をしたりしますよね。
すると不思議なことに相手もこうした動作・そぶりを見せるときがあります。

相手から視線をそらしてばかりいると、相手もこちらに視線を送らないようぎこちなくなったり。(自分が自己視線恐怖症である場合の例)
相手からの視線を警戒すると、相手もこちらを警戒してきたり。(自分が他者視線恐怖症である場合の例)
相手をにらむような目つきになると、相手の目つきもおかしくなったり。(自分が正視恐怖症である場合の例)
相手をチラ見すると、相手もチラチラこちらを見てきたり。(自分が脇見恐怖症である場合の例)

こんな感じで自分の動作が相手にうつるのをみると、視線恐怖症の症状まで相手にうつったと感じてしまうものです。
わたしも昔は「視線恐怖症がうつってしまった」と勘違いをし罪悪感にさいなまれていました。

しかし今では、こうした反応の原因はミラーニューロンという神経細胞にあると考えています。
簡単にいうと、人の動作をみて鏡のように反応する仕組みです。
有名な例として、あくびがうつる、もらい泣きをするといった現象があります。

「視線恐怖症はうつる」と勘違いをしてしまうのは、この「ミラーニューロン」の存在のせいかもしれません。
視線恐怖からくる自分の動作を相手がまねているかのようにみえると、症状がうつったと思い込んでしまうんでしょう。

しかし「うつった」かのように思える動作を相手が行うのは、たいていその場かぎりです。
たとえばわたしが妻と話していて目の置き所がわからなくなったとき妻も目をキョロキョロとさせたりしますが、わたし以外の人にはそうした目つきで会話をしていないようにみえます。
日ごろから視線をそらしたり変な目つきになっていれば視線恐怖症はうつったといえますが、妻の場合そうではありません。

動作が一時的にしかうつらないのは、健常者に視線への恐怖心がないからでしょう。
わたしたちは恐怖にかられてそうした動作を行いますが、健常者にはこうした行動理由がないわけです。
だからミラーニューロンによる反応のみにとどまるんでしょう。

視線への恐怖心はうつらない

そしてわたしの経験をふりかえると、「視線への恐怖心」というものはうつらないと感じています。
「人の目がこわい」という気持ちは健常者からすると理解しにくい、実感しにくいもののようです。

これまで家族、彼女(妻)や親友に視線恐怖症を打ち明けたことがありますが、誰ひとりも視線恐怖症を発症していません。
みんな健常者として社会で活動できています。
とくに家族(親と弟)は全員がもともと神経質であるため視線恐怖症になりやすい性格という気もするんですが、いまのところ問題なしです。

打ち明ける前は「視線恐怖症だと告白したら相手にうつるかもしれない」と勘違いしていました。
症状についてくわしく説明したら相手もそれを意識し始めて視線恐怖症にかかってしまうのでは…と妄想していたわけです。
ところがいざ打ち明けてみると、うつるどころか症状についての説明がうまく伝わらなかったように思います。
彼ら彼女らには「人目がこわい」という感覚がよくわからないようでした。

親しい人以外にも当然うつっていません。
学校のクラスメート、予備校仲間、学生時代の友人、仕事先の同僚などいろんな人に視線恐怖症を抱えながら接してきましたが、うつった人はひとりもいなかったです。

こうした人たち(他人やちょっとした知人)の前では人見知りな性格のせいか余計に視線恐怖症の症状が出やすかったので、そうした人々に動作などがうつることはよくありました。
ただそれは前述のミラーニューロンが原因になっていただけという気がします。
視線恐怖症について何も打ち明けていない人たちであるため、わたしが人目におびえてそうした動作をしているとはわかるわけがなく、恐怖心までうつったとは思えません。

以前に受診した精神科や心療内科の医者たちにもうつりませんでした。
受診時に視線に対する恐怖を細かく説明しましたし、その医者もある程度はその恐怖心をわかっているようでしたが、医者自身は視線恐怖症をいっさい発症しなかったです。

健常者に視線恐怖症がうつらないのは、視線にまつわる嫌な出来事(目隠しされる・咳(咳払い)される・舌打ちされる、など)を日常的に体感していないからだと思います。
たとえ相手が視線恐怖症について熟知していたとしても、視線恐怖心までは実感していない場合はその人に症状がうつることはないでしょう。

視線恐怖からくる動作はうつることがありますが、視線への恐怖心は全然うつりません。
したがって「視線恐怖症は人にうつらない」といえます。

相手が視線への恐怖心を潜在的に持っているのであれば、視線恐怖症患者の動作をみて発症することがあるかもしれません。
とはいえその恐怖心は患者からうつされたものではありません(その人が過去の経験によって育んできたものです)ので、やはり視線恐怖症はうつらないといって良いでしょう。

視線恐怖症で悩んでいると日ごろ接する人に症状をうつさないか不安になりますが、その心配は不要ですよ。
「うつってしまった」と感じたら、「そうみえるだけ」と思い直してみてください。