お笑い芸人の又吉直樹さんが芥川賞を受賞したとの話題に乗っかって、小説本『火花』を最後まで読みました。
わたしは小説をほとんど読まない人なんですが、読後の感想を書いてみます。
全体的に読みやすいものの、物語の内容自体は微妙で「つまらないな…」と感じました。

本そのものは読みやすい

花火の火花

火花の文体は現代語調でわかりやすく、小説素人のわたしには読みやすいです。
又吉さんは読書家らしいので自身の作品でも奇をてらった表現を多用するはずと思っていたんですが、良い意味で裏切られました。

情景描写についてもイメージが浮かびやすく、物語の世界観に自然と入っていけたように感じます。
わたしがたまに小説を読んでいて挫折するのは情景描写の部分で、読み進めていくうちに具体的な場面を思い浮かべられなくなることが多いんですよ(苦笑)。
その点、この『火花』は本の最後まで頭の中で情景をイメージでき、作品としっかり向き合えた気がします。

登場人物が少ないのも、人間関係が複雑にならず読みやすかったです。
基本的にふたりの中心人物だけで物語が進んでいくので、読み手の負担は少ないと思います。
わたしの場合、長編小説とかだと登場人物が多すぎて、読んでいるうちに相関図がわからなくなってくることが少なくありません(苦笑)。

内容がつまらない

さて「読みやすい」のは良いんですが、肝心の内容(ストーリー)がつまらないです…。

登場人物がおもしろくない

まず、作品の登場人物が致命的におもしろくないと感じます。
中心人物のふたりは両者ともお笑い芸人なんですが、どちらのボケ・ツッコミもおもしろくありません。
とくに先輩芸人のほうのボケが常に意味不明で、わたしにはわからないセンスでした。

そうした微妙なお笑いセンスに拒否感を抱いたせいか、読んでいるあいだ一度も彼らに感情移入できなかったです。
終始、傍観者のような冷めた眼差しで両者のやり取りを見ていましたよ(苦笑)。

ふたりがお笑い論を展開する場面も多いんですが、やはりまったくわからない…。
又吉さんのお笑い論として読んでみると少しはおもしろいのかもしれませんが。

そのほかの数少ない登場人物は出番自体も少なく風景みたいなものでした。
脇役の感情の動きはあまり描かれていないので、作中の人間関係が薄っぺらい感じもします。

よくあるお笑い論

物語の終盤ではお笑い芸人の葛藤のようなものが書かれているんですが、とくに真新しさはありません。
万人にウケるためには尖ったことはできない、しかしそのいっぽうで自分の笑いをとことん追求する姿も尊い。
……そんな感じのよくあるお笑い論です。

立て続けに読者へ語りかけてくるような文章で迫力はありました。
ですが言っている内容がありきたりなものなので、何も心に響いてこなかったです。

『火花』は小説であって評論ではないでしょうけれど、もうちょっと芸人・又吉さんオリジナルの視点があったらおもしろかったと思います。
登場人物のモデルが彼の周辺に実在する芸人さんたちのような気がしているので。

ラストが消化不良気味

少しネタバレになりますが、ラスト(締め)が消化不良気味です。

先輩芸人の誘いでもう一度お笑いにチャレンジする主人公。
……一読すると、青春漫画のような胸アツな終わり方のように感じます。

しかしその先がどうなったか描かれておらず、少しズルいなと思ってしまいました。
わたしが想像するに、ダメ人間でもある先輩と漫才コンビを組んだら悪循環な気がします。

このあたりの読者のモヤモヤ感をうまく解消してくれるようなラストであってほしかったです。
それまでテンポよく進んでいただけにいっそう残念に思います。

あくまで小説素人の感想ですが、原作本の『火花』はストーリー自体はつまらなかったです。
ただ読みやすかったせいか、読後にレビューサイトで低評価を下したくなるほどの作品ではありません。