近ごろ「LGBT」(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーの英語頭文字をとった造語)についてよく見聞きするので、それがテーマの海外ドラマ『トランスペアレント』(TRANSPARENT)を視聴してみました。
(現在、 Amazonプライムのオリジナルドラマとして独占配信中です。)

『トランスペアレント』は、LGBT文化の盛んなアメリカでゴールデングローブ賞やエミー賞を受賞しているなど高い評価を受けています。
しかし個人的にはおもしろいと感じず、LGBTというきわどいテーマに対し勘違いをもたらす作品という印象です。
とはいえLGBT当事者の方にはポジティブなメッセージを与えてくれるかもしれません。

以下ネタバレを多少ふくみますが、本作の感想を細かく書いてみます。

LGBTな登場人物たちは性欲強めで自分勝手

レインボーフラッグ

『トランスペアレント』の登場人物たちにはLGBTが多いんですが、みなさん性欲強めです(汗)。
とくに物語の主軸となるフェファーマン一家の子どもたち(といっても30代・40代の年齢ですが)は、重度のセックス中毒と言っていいくらいだと思います。

長女のサラは昼間からSMクラブに通ったり元夫をまじえて若い女性と乱交したりしているし、次男のジョシュアは常にいろんな女性を抱いているし、三女のアリは気持ちいいセックスの追求に飽き足りません。
LGBTって性欲の強い人たちのことなんだろうかと勘違いしてしまいそうです。

本来LGBTとは、性同一性障害なども含めたナイーブな概念なのではないでしょうか。
にも関わらず『トランスペアレント』では性生活が頻繁にクローズアップされていて、そうした描写を通じて監督はいったい何を伝えたいのか全然わかりません。

また、フェファーマン家の人たちの自分勝手さにもあきれてしまいました。
70歳を過ぎてトランスジェンダーをカミングアウトした父・モートンは、長年つれそった妻・シェリーと簡単に別れてしまいます。
相手の半生(結婚してから現在まで40年ほどの人生)をも揺るがす告白をしたにも関わらず、相手の気持ちの整理がつかないまま家を出ていくなんて勝手です。

バイセクシャルの長女・サラは昔つきあっていた女性と結婚するため夫と離婚し、既婚者だった相手女性にも離婚を強要しましたが結婚式当日になんと婚約を破棄。
自分の身勝手なふるまいで、ふたつの家庭をメチャクチャにしたわけです。

そのほか次男・ジョシュアは結婚後に隠し子の存在が発覚すると彼を里親の元へ無理やり追い返してしまいますし、三女・アリも含めた家族のほとんどが母親のシェリーを軽んじているようにも見えました。
『トランスペアレント』を視聴していると、LGBTはかなり自己中な人たちにみえます。
社会の被害者というより加害者なのでは…という気すらしてしまうのです。

LGBT当事者に希望を与える作品?

ただ、そうしたフェファーマン一家の暮らしぶりは、良いように表現すれば自由奔放といえるのかもしれません。
現実社会で生きづらさを感じているLGBTの方たちにとって、『トランスペアレント』は希望を与える作品ともなりそうです。

前述したような自分勝手さはありますが、モートンをはじめとした家族たちは自分の意思にしたがって生きているともいえます。
いろいろと問題を起こすけれど、基本的には日々をハッピーに暮らしている姿が本作では描かれているんですよ。

マイノリティ(社会的少数者)と自覚していると自分を押し殺して生きがちです(のわたしもそうです)が、そんな態度ではなかなか幸せになれないのかもしれません。
普通の人と違うからといって、周囲に遠慮する必要はないのですよね。

わたしはLGBT当事者ではないので断言できないですが、『トランスペアレント』はLGBTの「生きるヒント」になりえる気がします。
キャストの演技は素晴らしくリアルなものであり、わたしにも人生について考えさせられる場面がいくつかありました。

トランスペアレント』には性描写が多いため、LGBTへの勘違いや偏見を生む恐れはあるでしょう。
わたしのようなストレート(LGBT用語で「異性を愛する人間」のこと)の方が視聴する際は注意が必要です。
また、登場人物たちの行動にイライラしてしまうことも多いかもしれません。

いっぽうで、LGBTの悩みを抱える方にとっては示唆に富んだ内容になっているとも思います。
視聴者がLGBTがそうでないかで評価が分かれそうな作品です。

なお現時点で、本作の続編(シーズン5)があるのかどうか雲行きがあやしくなってきました。
主役を演じるジェフリー・タンバーがセクハラ疑惑で降板してしまったからです。
性を扱うテーマの作品なだけに、少なくとも彼の復帰は難しいような…。